文化財としての加悦鉄道車輌群(その2)
                                      篠崎 隆

駅長の出発合図で、汽笛一声小さなディーゼル機関車に牽かれた木造客車がゆっくりと走り出す。カメラ
のシャッターをきる人、手を振るご婦人たち。年2回の「加悦SL広場」での旧加悦鐵道再現列車運転会
の微笑ましい光景である。

  

  DB201ディーゼル機関車の牽く加悦鐵道再現列車        平成22年(2010)加悦SL広場

 この機関車は「DB201」の車名をもち、我が国で本格的なディーゼル機関車が生産される以前の、戦
後の混乱期に生まれた特徴のある小型ディーゼル機関車の生き残りである。加悦鐵道60年の歴史の
中で新製した車輛3輌のうちの1輌で、鉄道マニアの間では「森ブタ」の愛称で親しまれている機関車で
もある。

 戦後の動力車不足を補うべく老朽化した小型の蒸気機関車の下回り(台枠、走り装置)を利用して、
ディーゼル機関車化に成功したのは大阪の「森製作所」(昭和7年創業の産業用内燃機関車メーカー)
であった。エンジンの動力をチェーンで伝達するにはその信頼性に難があることからジャック軸を採用、エン
ジン、変速機、逆転機等の位置関係からセンターキャブ方式を採った。このデザインが愛くるしい “ブタ”の
ようにみえたので「森ブタ」と称されたのだろうか。真意のほどは不明である。

          昭和28年(1953)新造時のDB201(後にサイドロッドはテーパー付きのものに換装)

 昭和20年代後半の加悦鐵道の動力車は蒸気機関車(2,4,1261C160の4輌)が主力であった。
気動車は1輌(キハ101)が稼働していたが、定員が50人と少なく多客時には蒸気機関車列車を仕立
てて対処せざるをえなかった。従って当時 石炭価格が高騰してきたことにより運転経費が増大し経営
を圧迫し始めていた。そこで牽引力、線路勾配、運行経費、投資額等を検討した結果、10トンディー
ゼル機関車を導入すべきであると日本冶金工業鰍ノ次のような内容の書類を提出(昭和278月)
し承認を得た。

    1)     購入車両 最大出力130HPのディーゼル機関を搭載する10トン機関車
    2)     価格   350万円
    3)     支払   石炭節約による利益金をもって1年間分割払い
    【備考】
      @   このディーゼル機関車は、勾配の緩い営業線(加悦〜丹後山田)であれば保有客車
        全輌を牽引することができ、蒸気機関車とその能力差はない。但し勾配の急な大江山
        線、岩滝線及び降雪時における営業線は従来通り蒸気機関車を使用する。

      A  燃料節約額は次のとおり、月間30万円となる。

区分

蒸気機関車

10トンディーゼル機関車

1km当り消費量

石炭0.022トン/km

軽油 0.4リットル/km

1日走行km

60km

60km

1ケ月燃料費

8000円×60km×30日×22kg
316,800

19円×60km×30日×0.4リットル
13,680

燃料単価

石炭 8000/トン

軽油 19/リットル

1ケ月燃料消費額差  303,120

 因みに最大勾配は、営業線12/1000 岩滝線10/1000 大江山線16/1000であった。戦後7年が過ぎ
油脂事情が好転してきたことと、石炭価格が高騰してきたことにより、運行効率の良いディーゼル機関
車が優位にたってきたからであった。

 そして昭和28年2月に竣功し実稼働に入ったのである。しかし就役直後にはサイドロッドをテーパー付
の強度の高いものに換装し、また7年後の昭和35年には機関気筒コンロッドの折損によりシリンダーを
大破、機関を三菱製DB7A型に取替えている。

             
                  竣工直後のDB201 昭和28年 加悦駅

 このような中でもDB201は多客時の木造客車牽引に大活躍し、大型の気動車(キハ083 長さ20m、
座席76人)を国鉄から譲受けた昭和47年までの間根気よく稼動し続けた。

 ところで森製作所のディーゼル化は、種車(改造の基になる車輛、この場合は小型の蒸気機関車)を
利用した改造を主としていたが、加悦鐵道のDB201は全くの新車であった。これは当時加悦鐵道が
所有していた蒸気機関車の動輪直径、固定軸距がいずれもディーゼル化には適していなかったことと、
森製作所自体が老朽車の下回りの使用を控えだしたことによるものであった。

 
   昭和36年(1961)丹後山田駅                   昭和42年(1967) 加悦駅1番線ホーム

森製作所は、昭和24年から昭和29年までの間に、蒸気機関車をディーゼル機関車化した鉄道・軌
道等の用に供するジャック軸付ロッド式のディーゼル機関車(センターキャブ型で愛称「森ブタ」)を全新造も
含めて11輌製造した。現在残っているのは、加悦SL広場のDB201が唯一で、しかも動態である。我が
国のディーゼル機関車の歴史において非常に貴重な存在であるので、いつまでもわずかな距離をのろのろと
でもいいので動き続けてほしいものである。